「金のいぶき」開発ストーリー
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当初は「米油」抽出品種としてスタート。
実は、これまでにない食味を持った玄米だった。
■水田の有効利用策としての“米油”。
金のいぶき(東北胚202号)は、最初から順風満帆だったわけではない。
開発期間を経て、発芽玄米用の巨大胚品種としてその存在が知られるようになったのは2008年。大手健康食品メーカーなど一部で注目を集めるものの、中々日の目を見るところまでは至っていなかった。そんな状況の中、その存在に注目したのが日本発芽玄米協会(現在の高機能玄米協会)である。
同協会は2010年に水田の有効活用を目的として、発芽玄米に限らず米自体の価値を多面的に活用するフィールドに事業を拡大。自給率がわずか3%しかない植物油脂の中で奮闘する米油(米糠・米胚芽から抽出する油)の生産の推進を模索していた。そこで目をつけたのが、胚芽が大きく糠も厚い「東北胚202号」であった。
■わずか1反の作付から始める。
この年、日本発芽玄米協会は原油抽出効率を高めることを目的に、「東北胚202号」の試験栽培を開始することを決定した。田植えの時期を過ぎた6月、「東北胚202号」の開発者である宮城県古川農業試験場副場長永野邦明の協力を得て、宮城県内の一般圃場で作付をスタート。しかし、作付面積はわずか1反(10a)というささやかな始動であった。
この年の秋口から、日本発芽玄米協会は高機能米油推進委員会を立ち上げ、それに伴い米油メーカーやJAが会員として続々入会した。
ある日原料生育部会会議を行っている最中、日本発芽玄米協会の尾西理事(現副会長)が「東北胚202号は、糠も厚く胚芽も通常のお米の約3倍と米油資源としては優れているが、食味に関しては期待できないのではないか」と発言したところ、それを言下に否定したのが開発者の永野だった。
「発芽玄米用として開発したこの品種で目指したのは食味です。美味しいんです!」
■発芽玄米としての実力に気づく。
尾西は永野が気色ばんだように発した言葉を忘れなかった。後日、自身が経営する高清水食糧(宮城県栗原市)で、大手健康食品メーカーが発芽加工した試作品を炊飯し食べてみたところ、
「何だこの味は・・・信じられない!」
何度もおかわりをしながら、東北胚202号の秘めた実力に驚いたのである。
ただ、玄米は炊飯が難しく、加えて糠や胚芽が発する独特の匂いも相まって、一般になかなか普及しにくいというのが常識。事実、発芽玄米は白米よりすぐれた栄養価を持つということで一時的に脚光を浴びたが、それ以上のムーブメントを起こすことは出来なかった。でも、この品種ならその高い壁を越えることができるかもしれない・・・
「永野先生、当協会に共同研究者として加わって下さい」
尾西が依頼すると、永野は二つ返事で了承。日本発芽玄米協会の学術会員として研究に参加することになった。宮城県古川農業試験場と日本発芽玄米協会は、米油用の品種開発と発芽玄米用途の開発で共同研究契約を締結することとなったのである。